フクシマ-東京-三宅島: 放射性物質と火山ガスの流れ

フクシマ三宅島チ−ム

福島第一原発事故では核燃料の冷却失敗でメルトダウンと水素爆発が起こり、
放射性物質が放射能雲となってばらまかれてしまいました。
ここでは、噴煙と火山ガスの動きから、放射性物質の流れと広がりを考えましょう。

1. 噴煙と火山ガスの流れ

詳しくは 火山ガスのぺ−ジ

1a. 異臭騒ぎ
 2000年8月28日、三宅島噴火の火山ガスが流れて東京都などで異臭騒ぎがありました。 これは火山ガスに含まれるSO2 (二酸化硫黄)のツーンとした匂いです。 噴煙とSO2などの気体はほぼ一緒に流れるので、衛星画像で見られる噴煙の流れから、火山ガスの動きを推測できます。
8月28日、北に流れる噴煙。 2000年8-9月ノア噴煙画像

噴煙と一緒に上空約1-2kmを流れる火山ガスが、太陽に暖められた陸上の空気の上下の対流によって平地まで引きずり降ろされ異臭騒ぎが起こったのです。詳しくは 当時のサイト
このことは、気象データを用いた原研大気環境研究グループによるSPEEDIシミュレーションでも確かめられました。

1b. 火山ガスは遠くへ流れる
 工場や自動車から排出されるSO2などを監視する大気環境測定点が全国に展開されています。三宅島火山ガスに含まれるSO2は関東・東海だけでなく関西・北陸など本州各地で検出されました。その場所は風まかせで、日時によって異なります。狭い幅で遠くまで流れる様子は、噴煙の衛星画像から理解されます。
ノア衛星による噴煙画像の例、 2000年と2001年より。
詳しくは ノア噴煙画像 2000-2004年

東京や本州各地の地表におけるSO2高濃度事象など三宅島火山ガスの影響は、次の2つの仕組みで理解できます。
○風が強くない時、上空を噴煙と共に流れる火山ガスが、日中の対流混合によって地表に引き降ろされる。
○強風の時、噴煙と火山ガスは低空を流れ、地表付近の乱流混合によって、風下の地表に影響する。
 なお、火山ガスの流れは低気圧や台風など気圧配置から、ある程度予想でき、さらに衛星画像による噴煙の様子から推測できます。 詳しくは三宅島火山ガスの動態と気象条件

2. 放射性物質と噴煙・火山ガス

2a.風に乗る気体と微粒子
放射性物質のうち、 高温で放出されたヨウ素131などは気体分子として空気に混合します。セシウム137などは固体や液体に含まれ、その微粒子は空気中を漂よい、風に乗って運ばれます。ヨウ素もやがて固体微粒子となったり液体微粒子に溶けるでしょう。
火山爆発では大きな破片は近くに散乱し、粒の粗い火山灰は少し流されながら近くに落下しますが、エアロゾルとよばれる0.01mm以下の微粒子はほとんど落下せず、火山ガスと行動を共にしています。2011年1月の霧島新燃岳噴火では、噴煙が数百km下流まで流れているのが分かります。
白い流れが火山灰煙.

もっと 新燃岳噴煙MODIS画像 2011年(東京情報大学受信)

SO2は太陽の紫外線で酸化されると水分を集めて硫酸エアロゾルとよばれる液滴になります。またSO2のまま水滴に取り込まれて亜硫酸になり、それが酸化されて硫酸エアロゾルになったりします。火山ガスでは流れる途中の化学変化も重要ですが、放射性物質の働き・危険性は変わりません。それぞれの原子核の固有の半減期でゆっくり減少するだけです。 なお、測定しやすい放射性のヨウ素やセシウムに伴って、検出に手間のかかる他の様々な放射性物質があります。吸ったり飲んだり食べたりした放射性物質による内部被曝の影響は問題です。

2b. 三宅島噴煙のノア画像とSPEEDIの比較
 1979年の米国スリーマイルアイランド原発事故を契機に,日本原子力研究所(2005年10月に日本原子力研究開発機構に統合再編、もう一つは旧動力炉・核燃料開発事業団 = 略称:動燃改め核燃料サイクル開発機構=略称:サイクル機構)では、原発事故による放射性物質の大気拡散をすぐに予測するための計算システムSPEEDI (System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information)を開発してきました。担当した環境科学研究部の方々は、火山放出物の大気拡散にも強い関心を寄せていました。火山も原発も一つの放出源から広い地域に影響を与えるからです。それで三宅島火山ガス問題にすぐに取り組み、1a. 異臭騒ぎを解明したわけです。  さらに、SPEEDIによる毎日の3時間平均のSO2濃度分布が、インターネットで公開されていました。  SPEEDIのテストとして、噴煙のNOAA画像の一つとSPEEDIの上空1000m濃度分布を比較しましょう。
7.15朝,2001年4-7月(1) 4.16 & 5.7 , (2) 5.13 , (3) 7.2 & 7.15

SPEEDIでは同じ強さのSO2の連続的放出を仮定して、SO2濃度分布を色分けして表わしています。その濃い部分の流れる向きと広がりは、ノア画像に見られる噴煙の形とかなり合っていますね。食い違いもあるのは、時間のズレや計算で用いられた気象データの正確さ、噴煙放出量の変動などのためでしょう。
 なお、SPEEDIでは始め海抜0〜2000mの柱状放出としていた初期分布を、2001年5月から海抜500m〜1500mに変更しました。これは地表濃度データとの比較によるものですが、噴煙の流れから考えても妥当な改善です。

当時の SPEEDI三宅島火山性ガス拡散シミュレーション:詳しい説明と一日の変化 の例を再録させて頂きます。
このような、見やすく分かりやすい公開のやり方が望まれます。

2c.拡散シミュレーションの信頼性
天気予報が外れるとき、同じ気象条件の拡散シミュレーションも外れるのは仕方ありません。
気象条件が妥当であっても、放射性物質や噴煙・火山ガスをどの高さから大気の流れに乗せるかが問題です。
放出する物質の成分と量は不明でも、何ヶ所かの観測値と信頼できる拡散モデルから逆算します。
(特に、SO2放出量は流れの断面濃度と風速から得られます。)
拡散モデルでは、地形の影響をどう取り込むかは、扱うスケールによって様々です。
三宅島火山ガスについてはSPEEDIだけでなく様々なモデルがオープンに議論されました。
例えば、多島域フォーラム「列島火山の噴煙活動を探る」, 2002.11.9-10 南太平洋海域調査研究報告,37(pdf 13MB) では多くのモデルの拡散シミュレーション結果が議論されました。

今回の福島原発事故では、国内研究グループの拡散予測や評価のオープンな議論を期待します。

「当学会の気象学・大気科学の関係者が不確実性を伴う情報を提供,あるいは不用意に一般に伝わりかねない手段で交換することは,徒に国の防災対策に関する情報等を混乱させることになりかねません.」との気象学会理事長見解には賛成出来ません。
秘密主義と情報統制のもとでの単一の公式発表では、なかなか信用できません。かえって非科学的な風評がマンエンする恐れがあります。異なる立場の複数の予測や評価のオープンな議論を通して信頼性が求められます。

3.  放射性物質の地表沈着
福島原発事故で放出された大量の放射性物質は、その時の風に乗って下流の狭い範囲に遠くまで流れたでしょう。
放出が続いている間に風向が変わり、危険地帯が扇状に広がることもあります。
地表の風は近くの建物や樹木、地形の影響を受けてかき混ぜられますが、上空に昇るほど風は広い範囲で一様になります。
天気図や雲の動きから風を読み、大気の乱れも考えに入れて放射能雲(放射性物質を含んだ大気の塊り)から逃れたいものです。

気体やエアロゾルとして大気中に含まれる放射性物質が地表に沈着するには、雨に洗い落される効果が絶大です。
降り始めの細かい雨は特に濃度が高く危険なことは、酸性雨と同様です。

放射性物質はそれぞれに決まった半減期で壊変していくだけで、その性質を変えて無害化することは出来ません。
地表に落ちてからどうなるのか追跡して、悪影響を避けたいものです。
地形は風の吹き方や雨の降り方に強く影響します。その参考として、福島県の地形の大づかみな特徴を調べましょう。

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南の空から見た @第1原発(右下) 以北

福島3Dと放射能汚染地図 , 西日本の原発地図 , 霧島新燃岳噴火と災害危機対応
(pdf, 0.8MB)