「21世紀初頭における世界の動向と大学の使命」  田中弘充(鹿児島大学学長)
 以下の要旨に述べるように,田中学長の講演は現代社会論,学問論,大学人のあり方等,大きなスケールのなかで大学の独法化問題を解明するという,刺激的かつ啓蒙的内容に富んだものでした.これまでの真摯な独法化問題への取り組み振りを改めて感得することができました
 昨今の日本人のノーベル賞受賞にみられるように,学問を産む風土として「自由」はなにより大切である,今日流行のcitationからはノーベル賞受賞の予測はできないというのが識者の見解となっている.
 日本をはじめ,世界的に今日は混沌とした社会であり,新しい社会システムへの移行期とみることができる.将来をみすえた高い視野からこのような社会的課題にたいして提言を発信することを大学人は求められている.
 ところが行政の主な潮流は「聖域なき構造改革」であり,「教育」「地方」といった分野が「改革」の対象になっている.「義務教育費の削減」という方針には驚かされる.
「市町村合併」も同じ流れにそったものである.本質論を欠き,経済効率に重点を置いた施策は理念的に大きな問題を含んでいる.
 中期目標の指示.中期計画の認可,成果の評価,運営交付金の配分・大学の改廃,といった独法化の枠組みは,各大学を個別にあるいは全大学を自由に支配することができるもので,人間性の冒涜とでもいえる前提に基づいている.アメリカの心理学者アルフィ・コーンは,仕事が報酬目当ての場合は,そうでない場合にくらべて成果が低下することを明らかにした.
 大学人は教育・研究の本質を再認識し,主体的な発言を躊躇しない精神的な強さを取り戻さなければならない.
 「国立大学地域交流ネットワーク構築の提言」は法人化へのひとつのオールタナティヴを意図したものである.
 世界の動向と大学の使命を考えるとき”think globally, act locally”という理念が有効であるように思える.(岡田)


「独法化問題の核心と大学関係者・諸団体の対応の問題点」  豊島耕一(科学者会議佐賀支部)
 豊島氏は独法化問題に関して一貫して反対の論陣をはってきたことで全国的にしられてきたが,新たに「独法化阻止全国ネットワーク」を立ち上げ,世界的なアピール活動を含めた取り組みを展開してる.
 今回の限られた時間のなかでの講演内容は,田中学長の講演と重なる点も多かった.「力関係」「玉砕」などといった政治的言説をもてあそぶのではなく,基本的な法制,ものごとの本質をふまえて重要な論点にたいして一人ひとりがガッツをもって発言していくべきことが強調された.
 講演の要旨は以下の通りである.
 この間の大学独法化の経緯を振り返ると,それまで反対であった「政策転換」についての説明が文部科学省からはなされていない.
 国立学校設置法・学校教育法では国立大学と文部科学省はそれぞれ別の設置法に根拠をもち「国会の前に平等」とされているが,「独立」行政法人化により,
・国立大学は文部科学省の出張所にさせられる
・教育機関としての存在が行政機関に変えられる.これは裁判所を警察に変えるに等しい
・「規制緩和」ではなく「規制強化」になる.国家機関としての「評価機構」の制度化 により実質化される.
 また独法化にあたって先行例,成功例として援用されてきたイギリスやニュージーランドの改革とは違って,「効率主義・競争主義」にくわえて「国家主義」がその主な柱となっているのが独法化の特徴である.このまま推移すれば,早晩大学版「教科書検定」というスケジュールも悪夢にすぎないといえなくなるであろう.
 「文部科学省の意向」を「神の意志」として容認し,不透明なやり方にchallengeしない教授達の精神性が指摘されるべきであろう.
 「世界科学者連盟」や「ユネスコ」へのアピールにたいする反響にもみられるように,まだまだ問題が決着したわけではない.今日多忙を強いられている諸種の文書作成についても,国会に法案さえも提出されていない段階での経費を「流用した」準備行為であり違法である.
 教育基本法改悪が政治的日程に上せられようとしている.独法化が教育基本法10条改悪の先行実施であることを理解してもらうことができれば,これにたいする国民的な反対運動との連帯の可能性も大きく広がってくるであろう.
 身近なところでは運営諮問会議の改革の可能性もある.民意の反映として学生代表の参加が検討されてよいであろう.
 独法化阻止が旧体制の擁護にならないためにも個人個人が意見を表明することが出発点となる.(岡田)